朝、戸をあけると、秋がそっと入ります。
そして夜、昨年は芒が揺れていたお隣の空き地は今、新しい家の工事中なのにコンクリートの枠からはみ出したわずかな隙間の雑草と我が家のフェンスとの間で、こおろぎがしきりに鳴いています。
でも日中はこの暑さです。「寒暖差疲労」「秋バテ」なる、流行語大賞を受けそうな異質な秋に、体は多くの人がついて行けていないと思います。この季節になると、近くの小・中学校の運動会の練習の様子が、スピーカーを通して風に乗り、我が家にも届きます。
先日、今年初めて買った青みかんの皮をむいていて、その香りに、ふと小学校時代の運動会を思い出しました。運動場の片隅の、鉄棒の下に敷いたゴザの上で、母と二人、お弁当の後その年初めての青みかんを口に入れ、肩をすくめるほど酸っぱかったその日、成績はいつもトップクラスで何でもできて、通知票は毎学期「オール5」だった仲良しの友達が、その日のかけっこでビリになってしまい、ゴールから自分の席に戻るとき、どこも怪我などしていないのに片足を引きずるようにして戻って行く姿を見た私は、なぜかとても哀しく、辛くなってしまったのです。
子どもだった私が「人間の弱さ」を垣間見た初めての瞬間だったかも知れません。また、そのとき、周りの友達が「アイツ、ビリになったとたん足引きずってサ、ケガのせいみたいに見せかけてるぜ」と、大きな声を発し、「そうや、そうや!」と同調した人たちがいたこと―。
青みかんの香りがすると私にはいつも、「人間の弱さ」と、それを許せない人達の「やさしさのなさ」の間で途方に暮れた、幼い日の記憶が今も蘇ってくるのです。
空が高くなりました。やっぱり秋ですね!
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